ようこそ地獄へ!本作はFPS視点で戦う最高にエキサイティングなパルクールアクションだ。その上ゾンビも出てくれば人間との戦闘もある。武器はバット、刀、両手剣、マチェット、散弾銃、ハンドガン、ライフル…とにかく暴力を働くにあたっての全てが用意されている。本稿ではそんな本作の魅力を余すことなく伝えよう。
プレイヤーは「GRE」という世界の救済組織に雇われたエージェント「カイル・クレイン」として、「ハラン」という町へ極秘書類を奪うために舞い降りる。そこでは人々が「ハランウィルス」に感染しゾンビとなり町を徘徊しているのだった。そんな中、ハランに住まう組織に入ったカイルはダブルエージェントとして、ハランとGREの板挟みとなりながら命がけの戦いを繰り広げることとなる。
本作はパルクールアクションを基本のメカニクスに取り入れており、移動する際に高所から高所へ飛び移ったりビルをよじ登ったりする。本来面倒なはずのお使いクエストにおける移動、それが堪らなく楽しいのが本作の魅力と言えるだろう。
マップデザイン、特に屋外のデザインは非常に優れており、思い通りのパルクールアクションを楽しめる。しかし地下迷宮のような閉鎖空間では迷うことも多少あり、その点はあまり褒められない。
また、戦闘は基本的に近接戦闘となるので敵のダメージを食らいやすく、慎重にプレイしなければ死亡しやすいので集中力を要するゲームでもある。しかしながらまるで「暴力のおもちゃ箱」のような作品なのでプレイにおける病み付き度はかなり高い。
マルチプレイも実装しており、ゾンビ側になってプレイヤーに襲いかかるモードや、人間側になって襲撃してくるゾンビプレイヤーを倒すモードなどが存在している。協力プレイも可能なのでフレンドとわいわい楽しむのも良いだろう。
ランク制のスキルシステムはパワーやスピードに分かれた数種類が実装されており、何をしていても経験値が上がる(銃を使っていてもパワースキルが上がる)仕様なのでプレイヤーの時間を裏切らない。また、これら各スキルランクが上がるとポイントが取得でき、そのポイントで特殊能力をアンロックしていくこともできる。ドロップするアイテムや敵の強さは変わったりはしないので、マルチプレイ時にレベル差がありすぎて一緒にプレイできない、という事態が起こらないのも好印象と言えるだろう。
本作は「Good Night, Good Luck」というキャッチフレーズを持つ。それは昼と夜とでゲームルールがまったく違うものになるという、本作最大の特色を表している。
例えば昼には、一部のゾンビを除いてゾンビ達が走り回ることはない。ところが夜になると一変、ゾンビは常に走り回っているし、夜専用のゾンビも登場する。夜専用のゾンビの攻撃をまともに食らうと殆ど即死してしまうため、手持ちのライトを照射するかフレアを焚いて近づけなくさせるなど、死なずに生き残るための対応が求められる。
一方で、日中に死ぬと経験値が減るというペナルティがあるが、夜間の死にはそのペナルティがない。その上、利点として夜間は得られる経験値量が倍に増える。ベッドで眠ることで時間帯を変えられるので、敢えてリスクを冒し夜に行動するか、大きなリスクは避けて昼間に行動するか、プレイヤーは甘美な悩ましさに襲われるだろう。
暴力発生装置こと本作における武器についてだが、基本的には近接武器がメインとなる。四つある装備スロットのうち三つを近接、一つを銃にしておくといった運用をしているプレイヤーも少なくないと思われる。
銃は強いが弾数に制限があり、発砲音でゾンビが近づいてくるといったデメリットがある。近接武器はサイレントにゾンビを倒せるが、使用を続けていく内に耐久度が減っていき、耐久度がゼロになると修理しなくてはならなくなる。修理できる最大回数も武器によって決められていて、例えばレアリティの高い武器なら最大四回まで、といったふうだ。銃には耐久力は設定されておらず、弾さえあれば使いたい放題だ。よって近接武器はいわば使い捨てとして運用し、適宜新しい武器を購入していくのが望ましいだろう。
また、近接武器に限り改造が行え、電気を発する刀や、炎を発するバットなど、お気に入りの武器に個性付けや強化が可能だ。更に武器毎に決められた数だけのモジュールを装着でき、このモジュールによって攻撃力、取り回しの良さ、耐久力の三種のパラメーターを上昇させられる。
サイドクエストの種類は数十種類も用意されており、どれもひと味変わったものばかりでプレイヤーを飽きさせない。もちろん意地悪なことに、危険を伴う夜にしか達成できないクエストだってある。
本作を開発した「Techland」は2007年に「Call of Juarez」という西部劇ガンシューターを手がけている。実はその作品の段階でパルクールアクションへの志向が見えていた(初代CoJにはパルクール的なアクションが実に多い)のである。それがこのような高質な形で花開くとは当時のファンも思っていなかったろう。
私が本作のキャンペーンでのエンディングを見るために費やしたプレイ時間は、なんと40時間にも上る。それだけの間、集中力を欠かず一定期間でクリアできたのは本作のプレイフィールがとにかく優れているという点にあるだろう。
ただ、跳び、走り回り、暴力を振るう。これだけの事をエンタテインさせた開発陣の手腕は見事なものだ。
さあ長い話はもうやめにして、暴力が自由に舞う世界を楽しもうじゃないか。
現実の要素をおよそ非現実的に描いて見せた本作の持つ、プレイヤーを没入させる力は素晴らしい。
本稿が世に出たタイミングでこれを読んでいるのだとしたら、きっと夜だね。
だから私はこう言おう。
Good Night, Good Luck