かつて、恐怖感やパニックによる意図的な操作の不備を誘発させ、世界的に大ヒットとなったゲームがある。
その名前は「BIOHAZARD」 カプコンから1996年に発売された洋館探索ADVである。
(SSはHDリマスター版)
そのモチーフとベースは、92年に発売されたIBM PC-DOSゲームの『アローンインザダーク』とよく言われているが、2000年に週刊少年マガジンで連載された「バイオハザードを作った男達」では、当初はレール式のガンシューティングとして開発していた経緯が話されている。(のちにそれはガンサバイバーとして開発される)
テーマとしてテラー、つまり恐怖を感じるシューティングを作りたいと作中では語っており、逆光の給湯室から出てきた女性社員を見て驚いた経験から、唐突なパニックと上からの見下ろしでのあの操作と演出を思い付いた、と語られていた。
さて、何故そんな話をしたか。話は本題『The Evil Within』に戻る。
本作のディレクターは、そのバイオハザードのプロデューサーである三上真司その人である。
勤務態度に難こそあるものの、刑事として優秀な主人公セバスチャン。
助手は新人の女性刑事キッドマン、ベテランのメガネことジョセフ。
ある日、精神病院での大量殺人の通報に応援で駆けつけるが、謎の男に襲われ監禁されてしまう。病院の地下と思われる場所から、生き残りと脱出を賭けたサバイバルホラーの始まりである。
序盤の「ビーコン精神病院」から唐突に始まり、ゲームエンドまで常に謎が付きまとう本作ではあるが、道中で拾うことが出来るメモや新聞記事から、主人公であるセバスチャンの内情を知る事でストーリーの補完が必要になってくる。
登場人物もそれぞれが闇を抱え、セバスチャン自身も大きな大きな闇を抱えている。
恐怖のどん底やパニックに陥った時、人は本性を現すとも言う。
果たして、彼らが見せる本性とは…そこはゲーム中で確認していただきたい。
道中、謎の器具が置かれている別の病院らしき場所に辿り着く。
病院から病院とは皮肉の効いた話ではあるが、この皮肉めいた場所こそがプレイヤーのオアシスとなっている。
この場所でのみ、主人公のスキルや特定の武器の強化を、痛い思いと引き換えに行える。
どんなものかは画面写真をつけておいたので参考にしてほしい。
さて、武器の強化であったり、主人公であるセバスチャンの強化を含めても本作の難易度はそれなりに高い。
と、言うのも氏の代表作品でもある初代バイオハザードをあらゆる部分で思い出す作品でもあるが、最もその空気を感じるのは、やはり難易度の部分である。
異様に難しいという所までは行かないが簡単すぎる訳でもない。
常に真綿で首を締め付けられるような…と言うのが的確な表現であるだろう。
このゲームでは心を落ち着けてゆっくり出来る場所が本当に少ない。道中は弾薬も回復アイテムも全てギリギリで運用する羽目になるからだ。
なお、プレイスキルにも左右されるため、ただ闇雲に使用すると正に詰みかねない。
そんなタイトなバランスが魅力でもある。
いわゆる、初見殺しと言われるような要素も多い事は事実では有るが、プレイヤーが焦れば焦るほどに回りが見えなくなり、弾薬やアイテムを浪費する事になる。
しかし、的確な操作と判断を行う事で、道中は非常に楽になる。
画面写真の様に音で誘い込んで逃げるのもテクニックの一つ。
また、逃げずに背後からステルスキルを取る選択肢すらある。
何も全てを相手にする必要はないのである。
賢くやれば弾薬の消費も抑えられ、一石二鳥である。
そして、本作のグラフィックはレベルが非常に高いことも記述の必要があるだろう。
筆者の環境でも割と「重い」部類に入るゲームである(Steamプロフィール参照)
光源のコントロールであったり、敵クリーチャ−のグロテスク要素であったり、死亡シーンの多様さであったり・・・
なんでそんな気持ち悪い事ばっかり思いつくんだよ!とひとしきり文句を言いたくなるような場面も多い。(勘違いされては困るので言及するが、反面不快感をもよおす程素晴らしい要素であるという事だ)
ただし、褒められる部分ばかりではない。
一点目はDLCについて。DLCは実質三本しかないが、ネタバレの要素が高い割合で占められており、プレイしなければ作中の謎が全て解けないのである。ただ本編とはプレイスタイルも激変する為、そういった意味では良く出来ているが…
のちに発売されるDLCが全てお得に手に入るよう、シーズンパスも販売されていたが、そのDLCの発売が遅れに遅れてセールとバッティングした事で実質半額以下になってしまった事は批判の必要があるだろう。
また、日本でのSteamストアレビューがひどい事になっているが、コンシューマー版予約特典のゴアDLC、初期配信時に同梱されていた日本語字幕削除に対する対応へのプレイヤーの批判と混濁した怨嗟の声である。
実際、メーカーの対応はまずかったと私も思ってはいるが、ゲームの出来とは分けて考えるべきであり、ゲーム自体の魅力と作品性を損なったとは思ってはいない。
だが、この一件をTango GameworksしかりZenimaxアジアはしっかりと認識してほしい。ゲーム外の出来事で評価を落とすのはゲームとして非常に残念であり、唾棄すべき事でもある。
作品の特性上、全てを語る訳には行かないが、本作はサバイバルホラーADVとしては格別の出来である事は間違いないだろう。
「気にはなっているが…」という方はPCスペックが対応しているのであれば、一度は体験していただきたい所ではある。