何時の世も、この近現代においても怪異という物は得てして傍に有るものだ。この現代に怪異に立ち向かう、神妙不可思議にて、うさんくさい男が…ってそれは違うヤツだ。しかしだ、この科学である程度の事象は説明も解決できる時代においても、未だに説明のつかない事象は数多く存在する。
そのせいか、太古から怪談というものは尽きず、2018年に差し迫る今でもホラーや怪談というのは人気のジャンルである。そんな人気ジャンルにテーブルトークゲームである『汝は人狼なりや?』をモチーフとして組み込んだビジュアルノベル作品『レイジングループ』を今回紹介する。
主人公“房石陽明”は唐突に出かけたバイクのロングツーリング中、超が付くほどの田舎で遭難してしまう。その遭難中に出会ったコンビニの不良店員に案内され、地図に存在しない秘境の村へ向かうことになる。
不幸にも、その村へ向かう途中事故に遭い、紆余曲折を経て謎の美少女“芹沢千枝美”と出会ったところで、彼の運命の歯車は大きく動き出す。彼女に導かれるままたどり着いた“休水”といわれる集落にて、彼は“黄泉忌みの宴”と呼ばれる伝承に則った危険なデスゲームに巻き込まれてしまう。プレイヤーは“房石陽明”の視点と行動を介してシナリオを進めていくことになる。彼は持ち前の知識と、よく回る口を使い集落へ介入していく。
本作品はタイトルに「ループ」とあるように、何度も巻き戻って真相を究明し、危機を脱するのが目的となっている。ただし、特定のルートや、限定された条件かでしか得られぬ情報やキーワードが存在し、それを得ることで新たな行動を解放するキーを入手する。そのキーはどうやって入手出来るかは…ゲーム中で確かめてみてほしい。
さて、“黄泉忌みの宴”は冒頭でも書いたように、古典トークゲーム『汝は人狼なりや?』そのものである。当該のゲームを知らない人のために簡単なルールを書くが、村人の中に紛れ込んだ狼は夜に村の一人を無残にも必ず殺してしまう。巻き込まれた村人たちは知恵という武器を持って昼間に議論を重ね、狼と思わしき人物を処刑し排除する。こうして、狼を無事排除できれば村人の勝利、できなければ狼が勝ちとなり狼は次の村を襲うというゲームだ。
その絶対的なルールの下で、宴は行われる。ただし、ゲームの人狼と違って実際に死ぬのが本作品の凶悪な部分である。ゲームの序盤、主人公は蚊帳の外で進行を見守ることになる。さらには部外者のポジションから宴の進行に助力しようと動くことになるが全て裏目に出てしまう。ただし、主人公は他のどの人物にも持ち得ない超強力な能力を有している。
それこそが本作品のキモであり、真実に近づくための「記憶を持ち越して過去に戻る」能力だ。
ややメタな話だが、この能力を用いて核心に迫るキーや情報を集めていく。主人公もこの能力をおぼろげではあるが自覚しており、その点を利用して危ない橋を渡ることもある。
ケムコというメーカーは、ある程度の年季のユーザーには『シャドウゲイト』や『ファーストサムライ』というイロモノなゲームをパブリッシングしていたメーカーのイメージがつきまとう。「ざんねん!!わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!」に代表される記憶に残る名ローカライズもさることながら、実はファミリーコンピューター当時から残るいぶし銀なメーカーなのだ。最近ではスマートフォンや携帯ゲーム機でのロールプレイング作品がメインになってはいるが、『D.M.L.C.(デスマッチラブコメディ)』や『鈍色のバタフライ』と過去に販売されたアドベンチャー作品の質も高く、スマートフォン、携帯ゲームタイトルとなるが、そちらもオススメだ。
西向く侍は東を向いたかもしれないが、『レイジングループ』はどの方角を向いたところで血の臭いにむせ返ることになるだろう。“房石陽明”となって誰かが望んだ展開をかき回した最後に待つエンドは見事なものである。かなりのアドベンチャー作品をプレイしてきた筆者でも、最後の展開は全く予想できなかった。人狼をモチーフとした作品は今となっては珍しくない。だが、そんな作品の中でも本作品はかなりの出色の出来と言える。
プレイ時間は40時間超。この長くも短い年末の年の瀬にいかがだろうか?