ある事故で身体機能を失った少女が、記憶と神経ネットワーク機能の回復のため電子的に構築された子供時代の空想世界を飛び回る、そんなストーリーを基底として進むアクションゲームです。
ゲームの概略は、ブースターロケットによる加速や垂直の壁面を駆け登るなどのアクションを駆使し、ステージ毎に設定されたゴールに到達するのみというシンプルなもの。しかし操作難度が非常に高く、はじめプレイヤーは幼児のように覚束ない足取りで、チュートリアルで指示されるゴールに辿り着くのさえやっとのことです。ゲームが進行すればするほどステージの構造は上空に向けてダイナミックに複雑化し、障害が配置され、ここは一体どうやって進めばいいのだろう、という絶望感に度々襲われます。
もちろんその困難さに対する配慮はされており、プレイヤーは任意の場所にチェックポイントを設定し、極めて容易に再チャレンジできるように設計されています。そうしてどうにか難所を越えプレイを続けていると、昨日まで何の気なしに通り過ぎていた箇所に突然、新しい道が見える瞬間が訪れます。もちろんステージそのものは変化したりせず、またゲームの進行に伴って開放される能力なども一切無いため、これは純粋に操作技術が向上した結果です。
プレイヤーの操作に対応するキャラクターの挙動も、このような驚くべき瞬間に幾度も出会えるだけのポテンシャルを秘めており、どこまでが開発者の意図したものか判らないほどの伸びしろがあります。
Cloudbuiltのゲームシステムは、充実したリトライ制度によるプレイヤーの技術向上に強くフォーカスされおり、プレイを続ければ続けるほどに可能性の拡張を感じ取ることができます。これこそが本作を他と差別化している最大の要素で、初見では到底不可能と思えるような挑戦的なステージや、革新的なプレイによるタイムアタックに幾人ものプレイヤーを駆り立てている、Cloudbuiltに対するモチベーションの濫觴であると思います。
私たちが、今できないことを明日できるようになるには、何度も失敗し、練習を重ねるほかに捷径はありません。昨日不可能だった彼岸に到達する達成感は得難いもので、そうした快感を比較的手軽に得られることが、コンピュータゲームのゲームたる所以でもあります。
非現実的なほどに何度も失敗し、技術を積み重ね、ゲーム世界の原理を身体化した時に可能性が爆発的に拡がる喜びを味わってほしい――Cloudbuiltには、そんなメッセージが細部にまで充溢しています。
公園で夕暮れまで練習して補助輪なしの自転車に乗れるようになったり、意味不明な記号の羅列でしかなかった言語の法則を学び触れる機会を増やすことで、文字の間から映像や発言者の表情が見えてきたり。Cloudbuiltがもたらす喜びの原基は、私たちがそうやって、できなかったことをできるようにし、世界を少しずつ拡げて生きてきたことそのものです。