OST:798円
タイムパラドックス……その言葉は、数あるSF作品においてトラブルの種であり、決して良いイメージのある言葉ではないだろう。
起こったはずのことを否定し、ありえない “もしも” を体験するIFのテクノロジーは、古今東西様々な名作を生み出した。
しかし、その行き着く先は大抵、めんどうな事件の収拾であり、「こんな現象が発生するから」と忌避されるものであることが多い。
だが、この『Super Time Force Ultra』ではまったくの逆。とっても便利で都合の良い現象として、ゲームを楽しくする大事な歯車の一つに組み込まれているのだ。
まず、本作は2Dアクションゲームであり、オーソドックスな内容である、ということから説明していこう。
ルールは単純明快。制限時間内にゴールまで行けばクリア。道中には収集物もあり、特定の条件を達成することでリザルトに影響が出る・・・というように、説明書がいらないほどにわかりやすいゲームである。
また、好きなステージから攻略していくステージ選択型の作りになっており、このことから、どのステージの難易度も大差ない。
ここまではどこにでもありそうな内容だが、その中にはもう一つ、このゲームの売りともいえるシステムが同居している。
それが冒頭でも軽く記した、時間に関すること。
このゲームでプレイヤーには時間の移動、タイムリープができるという特殊な能力があるのだ。
本作はいつでも、ステージの最初から進行したところ(=経過した時間)までの好きなタイミング、好きなキャラクターでリスタートしなおすことができる。
例えば、何てこと無いうっかりミスでやられた際、5秒前に戻って回避したり、ゴール目前になって収集物が足りないことに気づいたから30秒ほど戻って探してみる、などといったことができるのだ。
この機能は使用回数こそ決まっているものの、やられたときには自動で使用される上、戻れる時間に制限は無いため、未来で降りかかるはずのあらゆる危険を回避できることになる。
これだけの説明では、とても簡単なゲームに思えるかもしれない。
失敗を無かったことにできるのならば、確かにそうだろう。
しかし、本作はHP制ではないので一発の被弾でミスになる上、できるアクションといえば"通常攻撃"と、その性能が強化される"溜め攻撃"ぐらい。
たくさんのキャラクターと個性豊かな攻撃方法で幅こそあれど、やはりやられるときはやられてしまうもの。
要は、この巻き戻し能力は便利ではあるものの、難しい場面が消せるということではないため、難易度を下げてくれるわけではないのだ。
と、こんどはやたら難しさを強調するような書き方をしてしまったが、実はこのゲームのタイムリープにはもう一つの側面がある。
それを聞いた後ではきっと、このゲームに対する印象はまた違ってくるだろう。
タイムリープに関するもう一つの要素、それは"タイムパラドックスの利用"だ。
タイムパラドックスとは、簡単に説明すると、現在・過去・未来に、時間を越えたことが原因で矛盾が発生してしまうこと。
本作におけるこの現象は、実にポジティブな意味を持っている。
それは、前述したタイムリープ能力の副作用として表れる「過去の自分の行動が、現在の自分に影響する」というものだ。
例えば、巨大なボスが居たとしよう。
そのボスのHPはとても多く、制限時間内に倒せそうにない。
そしてとうとう、100秒かけても倒せなかったとする。
そこで100秒前にタイムリープ。
すると、戻った先では"さっきまでの自分"がいわゆる"ゴースト"としてリプレイされ、巻き戻る前までの100秒間、まったく同じ働きをしてくれる。
これを利用すると、過去の自分がリプレイされている中、現在の自分も動くことで、二人で協力してボスを攻撃、つまり2倍の戦力で戦えることになるわけだ。
これでもまだ火力が足りない、あるいは途中で被弾してしまったというのであれば、再びタイムリープをすればいい。
こうして何度もタイムリープを繰り返すことで、何人もの自分と時間を越えた共闘をし、敵やギミックを攻略していくことこそが、このゲームにおける時間移動能力の真髄なのである。
当然ではあるが、レベルデザインもこれを考慮されたものになっている。
敵は容赦なく殺意むき出しの激しい攻撃をしてくるし、初見殺しなんて当たり前。
やけに固かったり、集団で襲い掛かってきたりと、一人で立ち向かうにはなかなか骨の折れるバランスなのだ。
さてさて、今一度ここまでの説明を読んだあなたに聞いてみよう。
このゲームの難易度についてどう感じただろうか。
すぐやられそうなシビアなゲーム?正解。
リスポーンが容易な簡単なゲーム?こちらも正解。
では実際のところは一体、どんな感じなのか。きっとなかなか想像しにくいはず。
なぜなら、その二つはみごとに両立しているからだ。
過去の反省を活かしつつ、未来の自分を手伝うというタイムリープ機能の存在により、今までの2Dアクションゲームとはまったく違う楽しみを感じられる『Super Time Force Ultra』。
アクションゲームに自信が無くても気軽にでき、自信があっても簡単にやられてしまうほど歯ごたえのある本作でぜひとも、数あるフィクションと一味違う、未来改変のおもしろさを感じてみてはいかがだろうか。