『Q.U.B.E.2』は一人称視点のパズルゲーム。壁や天井の多くが正六面体で構成された不思議な施設から脱出することが目的です。
さっそくですが、本作のパズル要素についてお話していきましょう。一言で表現するなら、ズバリ「ひたすら丁寧で硬派な、パズルらしいパズル」。パズル初心者にも安心して薦められるゲームと言ってもよいでしょう。
その理由として挙げられるのは、使われる仕掛けが複雑すぎないという点。というわけで、まずはこの”仕掛け”について説明していきます。
パズルの攻略において使う仕掛けは大きく分けてふたつあります。ひとつはプレイヤーが”ブロック”に対して行うアクションです。
部屋の中には白く枠組みされた部分(ここでは”白ブロック”と呼びます)がいくつか用意されてあります。プレイヤーは、この白ブロックを ”赤” ”青” ”緑” のいずれかの色で着色することで、その色に応じた機能を付与できるのです。各色の機能は以下の通り。
これらのブロックは、照準が合っていて、かつプレイヤーと白ブロックの間に障害物が無い限り、どんなに遠い距離からでも操作できます。上書きや消去も回数制限無く行えます。なので、自分は余り動かず、定点から遠隔操作することも多くなります。ただ、ブロックの判定は見た目どおりなので、操作の際はしっかりと狙いを定めなければいけません。要はFPS的な使い方になるということです。
以上のブロック操作は、全ての部屋において必要となる基本の機能です。もうひとつの仕掛けである、各部屋に固定設置されている「ステージギミック」は、全ての部屋に必ず用意されているわけではありませんが、いくつも同時に操作できます。
こちらは多種多様なので一部だけ紹介します。
以上のギミックは出現するチャプターが決まっており、ある段階から突然出てこなくなります。それと同時に、新しく別のギミックが出現するのです。そう、丁度使い方に慣れてきて、考え方がマンネリ化する頃に切り替わるのです。そのおかげで、常に新鮮さが味わえるだけでなく、歯ごたえのあるパズルを楽しめるようになっています。
本作において、私が最も優れていると思った点は、レベルデザインです。
最初はチュートリアル、次の部屋は復習、その次が応用。しだいにそれまで出てきたテクニックを要求する発展型へと移っていきます。本作は、このレベル移行の按配が非常に丁寧なのです。緩やかに、しかし確実に難易度が上がっていくため、無理なく攻略の手を進めることができます。
また、各ギミックにおいて、必要以上に言葉を使って説明していない点もすばらしいですね。パズルゲームのクオリティを探る点で最も重要なのは、新しい仕掛けが出てきたとき、特に説明がなくても触るだけで一発でわかる状態にしてあって、しかもそれがわざわざ一問分として用意されているということです。以下のwebmを見てみてください。黄色スイッチと青色スイッチのチュートリアルです。
2色の役割の違いや、ケーブルの存在で動く対象がわかるということが、自然と理解できるようになっていますね。本作では、最低限の操作を除き、このようにプレイヤー自身に操作させて役割を覚えさせるという作りになっています。この部分が上手く作りこめていないゲームは、無粋にもメッセージで教えるという手段をとります。普段からパズルゲームをよくプレイする私から言わせてもらえば、この違いだけでかなり評価が変わってきます。
ところで、本作の魅力を解説するに当たり、他の作品を引き合いに出すとするなら、やはり『Portal』が妥当でしょう。何せ、ゲーム性から雰囲気までいくつも類似点がありますからね。”『Q.U.B.E.2』は『Portal』みたいなゲーム” と表現することができると思いますし、ここまでのSSを見ただけでは大多数の人間がそう感じるでしょう。
ところが、この両作品を個々の点に着目して比べてみると、実は不思議と対極の位置にあるゲームだということがわかります。そこで、ここからは両作の違いについて説明することで、『Q.U.B.E.2』の個性と特徴を語っていこうと思います。
それではまず、『Portal』の世界を思い出してみましょうか。このゲームの最たる特徴は、やはり「ポータルガン」における奇抜な解法です。物理法則を利用した上で、物理的な障害を突破するシステム。そこには、パズルでありながらも、ある種パズルらしくないアクション性が存在していましたね。
この他のどこにもない奇抜な設計は、仕様上、パズルの難易度がアクションの難易度と比例していました。その要因は、物理演算を用いた解答の自由度にあります。たとえ想定されていたであろう答えから逸脱したところで、アクションゲームとしてうまく操作でき、ゴールへたどり着いたのなら、それはそれで正解として認められるのです。このことから、『Portal』におけるパズルゲームとしての特長は ”正答の寛容さ” と表現できます。
さて、では『Q.U.B.E.2』はどうでしょうか。前述したように、プレイヤーの操作できる部分はブロックやギミックのスイッチ部分のみと限られています。当然これらは固定配置であるため、想定外の動きは通常のプレイの範疇において不可能でしょう。よって解答に自由度が無く、たったひとつの正答以外は許されません。実にパズル然としています。『Portal』とは綺麗に真逆の仕様ですよね。
たったこれだけの違いでも、攻略の中では言葉以上に大きく影響します。
例えば、スタート位置からはるか上空にゴールがあったとしましょう。
『Portal』の攻略ではまず、部屋に何があるかを全て確認した後に、動き方をイメージするところから始まったと思います。そこで想定されるものは、宙を飛ぶ自分自身やキューブの放物線ではありませんでしたか? どこで慣性を溜めて、どこまで飛んで、どこにポータルを開くか……という具合です。このことは、パズルを解くピースが ”空間” という、漠然とした大きなものにあることを意味しています。
『Q.U.B.E.2』では、それが床や壁の”点”になるわけです。なにせ、どこかへ移動するためのギミック類は特定の場所に固定配置されています。すると、自然と考え方はその、”特定の場所”から”特定の場所”までの移動という小規模なものに限定されます。点と点を線で結ぶようなイメージですね。この考え方の場合、必ずしも部屋全域を理解する必要はありません。各ギミックの関連性さえ自然に構築できれば、それを連続的に動作させればいいだけですからね。
というように、たったこれだけの比較でも真逆といえるほどの違いがありました。そう、『Q.U.B.E.2』は単純な『Portal』クローンではありません。『Portal』はどちらかと言えばアクション寄り、『Q.U.B.E.2』は対極のパズル寄りなのです。本作には本作独自の個性があります。それは、解説がネタばれに直結してしまうパズルゲームの性として「プレイしなければわからない点」にあることは否めません。よって、全ての要素を詳らかにする事はできませんがしかし、確かに違うのです。
プレイの最中、どうしてスムーズに解けるのかを考えてみれば、本作が細かいところまで本当に丁寧なつくりをしていることがわかります。無理な解法は間違いで、スマートに繋がる進行が正解なのは当然のように思えますが、本作ほど繊細な作りのものは非常に稀です。これは美点として胸を張れる特徴といえるでしょう。
この「パズルとして普通の部分」を高水準で整えていること。それこそが『Q.U.B.E.2』のパズルを「ひたすら丁寧で硬派な、パズルらしいパズル」と表現した理由であり、「初心者向け」と記した理由でもあり、私が本作を愛する理由でもあるのです。
最後になりますが、本作のタイトルから察せられるように、前作に当たる『Q.U.B.E.』というゲームもあります。ストーリーや世界観に繋がりは全く無いため、どちらからプレイしても問題ありません。もし、本作に興味を持ったけれど、その値段に及び腰をしてしまう、というのであれば、まずは前作から手をつけてみるのもアリですよ。さすがにグラフィックは見劣りしますが、そのパズルとしての系譜は確かに繋がっていますからね。