今は昔、謎の技術で作られた未知の構造物があったとする。
埃と歴史に埋もれた、無人の建造物が形を保っていたとする。
それは無機質で美しく、果てが想像できないほど巨大な規模だったとする。
ああ、実にロマンあふれるシチュエーションではないだろうか。
今回紹介する『NaissanceE』には、そんなロマンが詰まっている。
本作は、謎の空間、奇妙な建造物の間を抜けながら、ただひたすらに進み、どこかを目指すという探索アドベンチャーゲームだ。
時に広い空間を、時に壁の隙間の細い道を、時によくわからない奇妙な場所を、冒険していく。
この” 探索アドベンチャー ”というジャンルだが、大変評価が難しいジャンルでもある。
もちろん、つまらないというわけではないのだが……問題は、他のジャンルのゲームに比べ、プレイヤー自身が持つ (このゲームがしたい) という意思へ、全てがゆだねられているという点にある。
例えば、本作の道中に幾度もある 「スイッチを押し、障害物をどけて進む」 という場面。
この仕掛け、言ってしまえばただいくつかスイッチを押すだけのものであり、謎解き要素と言えるほど頭を使うものではない。
敵もいない。ガイドも無い。文章も操作説明の数文だけ。
アドベンチャーというジャンルにおいては珍しく無いことではあるものの、この手のゲームをしない人からすれば、些か退屈に聞こえるだろう。
加え、本作は ”雰囲気ゲー” と呼ばれる類で、ストーリーやそれに連なるシナリオ的謎解きが存在しない作りだと聞けば、余計淡白に感じる人もいるはず。
よって、プレイヤーのやる気しだい、つまり、極めて主観的な感想によって、評判はがらりと変わってしまう危険がある。
雰囲気を重視した、探索するだけのゲームであるこの 『NaissanceE』 もまた、人によっては何も面白くないゲームになり得るだろうと言えてしまうわけだ。
では一体なぜ、そんなゲームを薦めるのか。
本作の魅力については、言葉を並べるよりもSSを見てもらったほうが伝わるかもしれない。
奇妙なオブジェと、ひときわ大きな建物。
遥か遠く、どこまでも続く壁と灯る明かり。
踵から発つ音だけが響く、無機質で広い空間。
誰もいない砂漠で動く、正体不明の機構。
これだけでわくわくした人に、もう説明の必要はない。
本作で演出される空間は、縦に横に奥に、どこまでも広く、探索したいという欲求を知る人には、たまらないはず。
目的も、進路も定かで無いままどこか別の場所へと赴く、この世界の醍醐味を味わうことができるだろう。
実際のところ、ここから見える光景には行けない箇所も多い。
遠くにある建造物にも、扉のような窪みにも、光の漏れる部屋にも、物理的には行けないようになっている。
とはいえ、例え足を運べなくとも、正解の道以外には何も無くても、背景として、演出として作りこまれた情景は絵になる。
隠されているアイテムなんて無いとわかっているのに、やたらと視線を動かして、霞みがかる彼方に何かを探してみたくなる気持ちが想像できるだろうか。
その気持ちが 「もっとこの先にある何かを見たいから」 と、足を進める動機を作りあげる。
走った時の呼吸音。大きく反響する足音。何かが軋むような音。どこかから吹き抜けていく風の音。
鳴ってはすぐに影へと溶ける音は、ここが空虚な空間であることを感じさせ、孤独感を与えてくるだろう。
どこまで行こうと、この無機質な世界に生き物らしきものは居ない。痕跡すら見当たらない。
しかしそれでも、不気味さに足を止めてしまうことは無い。
一人称視点という作りが、プレイヤーとキャラクターとの隙間を密にしてくれるおかげで、寂しさよりもずっと、探検の臨場感を大きくしてくれるからだ。
あなたはここまで並んだSSを見て、何を思っただろうか。
ここには何があるのか?どういうルートを通ることになるのか?別の視点からは何が見えるのか?もし落ちたら?あそこは通ることができるのか?
きっと、数枚のSSでは情報が足りず、いろいろなハテナが生まれるはず。
だが、その探究心、衝動こそが、本作の世界で感じるおもしろさになってくれるのだ。
……ところで、この場面では、霧がかって見えない真下の階層へと進むことになる。
どういうルートを通るかはわりと自由だ。多少強引にいくこともできる。迷っても、光の灯っている場所を目指せば自然と下層へとたどり着けるようになっている。
柱に架かる階段や、脇に見える小道を進んでいけば、いつのまにか中腹まで来ていることだろう。
そこでふと真上をみると、さっきまで見下ろしていた場所があんなに遠く、どこが入り口だったわからないほどに背景と一体化しているわけだ。
はてさて、それは一体、どんな景色か?
気になるあなたはきっと 『NaissanceE』 を楽しめるはずだ。