『Filthy Lucre』は見下ろし型のステルスアクションゲーム。
敵の基地に潜入し、金品を強奪するなどの様々なミッションをこなしていくことが目的のゲームだ。俯瞰視点であることから敵の動きや地形を把握しやすいく、ステルスゲームとしては難易度が低いように見える本作。
しかし、実際のところは身を隠しながら進行するよりも、敵に見つかり銃撃戦を行いながら進むアクションゲームとしての比重が大きい、一風変わったステルスゲームなのである。
主人公は武器として銃を2丁、アイテムを2種類持てる。
これらの装備はステージクリア時にもらえる経験値でアンロックした上でお金を使い購入する形式で、大別して音が出るもの・出ないものが用意されている。
音に敏感な敵たちを欺くためのサプレッサー付き銃をはじめ、カメラを無効化するためのEMPグレネード、一定時間通報をジャミングするジャマーなどを活用することで、ステージの攻略難度を大きく変えることができる。
また、ステージの各所で他の装備が拾えることもあり、ステルスを円滑に行うためには臨機応変な装備選択と切り替えが重要になる。
本作は全15ステージ構成。一つ一つのステージは屋敷なら屋敷全域、基地ならその全部といったようにマップはかなり広い。しかしチェックポイントは無く、やられてしまえば最初からと、少々シビアな面もある。
とはいえ、一撃で死んでしまうトラップのような物はない上、主人公は自動でHPが回復する。多少の傷はなんでもないため、気をつけて進行する限りこのバランスにつらさを感じることはないだろう。
そしてもう一つ、ステージに関して忘れてはならないのがステージギミックの豊富さだ。
音を出して敵を誘う水道、カメラを無効化するPC、別の部屋へと迂回できるダクトやエレベータなど、手段から様々な進行ルートを想定できるものがいたるところに存在する。
この作りはマップの広さと相性が良く、繰り返しプレイする際にもルート構築や攻略手段など幅広い選択肢を与えてくれ、長く遊べる要因となっている。
本作における "見つかったときのリスク" を示すものは画面左上の丸いゲージ。
最初が「1」で通報されるたび徐々に増えていき、「4」を超えると完全にばれたという扱いから1分の猶予のうちに脱出しなければいけなくなる仕組み。ミッションをクリアできないうちにこうなってしまえば、実質的にはゲームオーバーだ。
ここで重要になってくるのが「3」までならいくら見つかろうが取り返しが付くということ。もちろん、数字が上がるたび警備が増えるというペナルティはある。だが、後述する理由により敵の数はあまり気にしなくともいいし、一度や二度の通報程度は軽症で済むため、ステルスゲームとしてのバランスは比較的やさしめ。こっそり隠れるじれったさが苦手な人も大丈夫となっている。
敵は異常を察知すると、一定の巡回ルートをはずれ不審に思った場所へとむかう。例えば音がしたり、死体を目視した場合がそれにあたる。この習性がどういった効果を生むかというと、音や死体を使って敵を誘きよせ、簡単に処理が行える……というのは当然のこと。
では、ここにもう一手間を加えてみよう。わざと敵に見つかり銃撃戦にまで発展させる。すると当然、その音を聞きつけ別の敵が様子を見に来るだろう。もちろんこの敵にもわざと見つかって騒がしく戦闘を行う。するとあら不思議、近場の敵はいつの間にか一掃できている。
この一見するとゲームの趣旨に反した行動のからくりは、敵の通報タイミングにある。
敵は異常を察知しても、その原因を目の前まで来て目視するまで通報しない。
どんなに銃声がしていたとしても、現場に駆けつけた時プレイヤーも死体も無ければ通報は行わず、警戒状態で巡回に戻るだけ、というわけだ。
その上、プレイヤーが射程範囲内に居る時にはその対処を優先する。つまり、リロードなどで物陰へと隠れる形となった際に初めて通報を行うのだ。
これにより、戦闘を行い続けている限り通報は防げ、ゲージ上では見つかった扱いにはならない。
わざと敵の注目を浴びるように立ち回ることで、従来のステルスゲームとはまったく別物のゲーム性が生まれるのである。
もっとも大乱戦にまでもつれ込むとさすがに収拾は付かないし、死体や自分自身が監視カメラに映ってしまうと誰が通報していなくてもゲージは上昇してしまうため、周りの状況や敵が通ってくるルートを考える必要がある点は忘れてはいけない。この部分に関してはステルスゲーム特有の緻密な考え方が求められる。頭を空っぽにし過ぎても駄目だ。
『Filthy Lucre』は私がプレイした限り、厳密にはステルスゲームではない。一見してそれらしく見える要素も、プレイスタイルを変えるだけでそのゲーム性が180度反転したからだ。
他のステルスゲームでは言い訳にしかならないはずの「目撃者を消したからセーフ」という考え方も、本作では正論としてまかり通ってしまう。とっさの対応が物を言うアクション性を内包したゲームバランスは、ステルスゲームをあまりやらない人にもおすすめできる作品だ。
余談だが、本作はこのゲーム性でありながらなんとCOOPができる(オン/画面分割オフライン)。コミュニケーションの取れる間柄の人とプレイした時、それがどういった状況を生むのかはぜひとも皆さんの目で確かめてほしい。