はるか下まで自由落下する恐怖。一瞬を積み重ねるほど増していく速度は、視界に映るものすべてを線に変え、あっというまに世界を変える。
ほとんどのゲームで死を連想させるそれは、ひやりとした悪寒とともに、嫌な思い出が刷り込まれていることも少なくないはず。
しかし中には、そんな落下こそが目的であるというゲームも存在する。
この『DownWell』だ。
本作はとにかく落下し、ゴールまで落ちればステージクリアというアクションゲーム。
道中に行く手を阻む敵はいるものの、頭を使うような謎解きはまったくないし、その敵すらも無視してかまわないというシンプルなルールだ。
プレイヤーが出来るアクションも"ジャンプ"か下方向への攻撃"ショット"のみとわかりやすく、ファミコンのコントローラでもプレイできるほど簡潔なシステムになっている。
しかし、簡潔といっても簡単というわけではない。単純であるがゆえ苦労する、難しい部分もあるのだ。
このゲームは下方向への半強制スクロールともいえる進行をする。しかし、その落下速度は速く、敵をかいくぐりながら舵を取るのはかなりの動体視力が必要とされる。
HP制ではあるものの、慣れないうちはあっという間に瀕死になってしまうほどなのだ。
そこで、プレイヤーには落下を抑え、状況を把握するための手段が用意されている。
ショットを撃った際の、反動による浮き上がりだ。
敵がなかなかの頻度で湧く本作においてショットを撃つ機会は多い。本作の目玉とも言えるこの機能。忙しそうな仕組みではあるが、動かしてみると意外と素直に操作できる。
ただ、要のエネルギーは被弾する、敵を踏む、着地した時しか回復しない。調子に乗ってむやみに撃っているとすぐ無くなり、一転してピンチを迎えることになる。
慣れるまでは大変だが、独特のふわっとした空中を制御する感覚は瞬間的で、うまく敵を捌き切り抜けた時には、気持ちの良い爽快感に酔えることだろう。
ショットにはいくつか種類があり、道中にあるアイテムを拾うことで切り替えが可能だ。基本的には攻撃力が高いほどエネルギーの消費量も多い、というバランスになっている。中にはHPを回復する効果がオマケされる場合もあり、自然と様々な種類のショットを使うことになるだろう。
道中にあるのはショットアイテムだけではない。回復アイテムやエネルギー最大値増加などのアイテムを売っているお店もある。
通貨となるのは”ジェム”。敵が落とす赤い宝石のような物だ。ジェムは自機と同様落下し、床や壁で跳ねるため、意識しないと あまり集まらない。注意すべきは敵だけではないのだ。
さらに、ステージをクリアした後は、いくつかの候補からアップグレードアイテムがもらえる。
「ジェムの吸引効果付与」や「ジャンプ時に爆発」などの恒久的な効果を発揮するものがほとんどであるため、どれも大変重要で便利だ。
デメリット効果が存在するものは無いため気軽に選択でき、進めるほどに強くなれる。
自機を好みの能力で強化していく楽しさも、本作の魅力のひとつだ。
他には、ゲームオーバーまでに取得したジェムを、いままでのゲームで集めたジェム数に加算、総数に応じて、性能の違う自機や、画面の色使いを変える"パレット"がアンロックされる要素もある。
ちょっとしたことではあるものの、気分を変えてみるといったことができるだろう。
これらの要素に加え、ステージの地形は毎回ランダムであること、敵の沸きも変化することから、毎プレイ、ローグライク的な楽しさもある。
1プレイあたりの時間は短いのだが、リプレイ性が高く、ボリュームとたいへん相性がいい。
ゲームオーバーになっても「もう一回」という気分にさせてくれる魅力があるわけだ。
『Downwell』は、古き良きファミコンやゲームボーイ時代のゲームを彷彿とさせる雰囲気を持っていながら、良く練られたシステムの中に古臭さを感じさせることはない。
ちょっとした暇をつぶせる手軽さ、何度でもリトライしたくなる魅力、誰にでも薦められるシンプルさなど、全てが高い水準でまとまっており、定価300円という値段から感じられる満足度は、大変高いといえる。
ただ落ちていくだけというわかりやすさに、ついついのめりこんでしまうおもしろさは、アクションゲームが好きという人にぜひともお薦めだ。