『Antichamber』 は、一人称視点で行うパズルアクションゲーム。
原色を基調とした色彩の部屋を進み、どこかにあるゴールを目指すという内容だ。
独特な雰囲気の世界には自分以外の存在やストーリーが一切存在せず、非常に質素。
そんな本作のパズル要素、それは一言にパズルとは言えないほど捻くれており、他のどんなゲームでも見られない奇妙な仕掛けでプレイヤーを迎えてくれる。
こちらの画面に見える銃のようなものは、ゲーム序盤で手に入る装備だ。
機能としては、ブロックを吸い込んで保持し好きに設置しなおすことができるというもので、ブロックを足場にしたりセンサーやドアをせき止めたりと、様々な場面で使うことになる。
本作における「パズルを攻略するアクション」を行うための、唯一の道具である。
しかし、真っ当にパズルらしい攻略をする場面はせいぜい全体の半分程度。
残りの半分はというと些かパズルとは言いがたい不条理な仕掛けによって構成されており、このパズルらしくない部分こそが本作の魅力を語る上で外せない要素となっている。
ではそれが具体的にどんなものなのか、最序盤に現れる『青と赤の階段』のシーンを例に語っていこう。
ちなみに、このシーンはPVでも確認できるので、ストアページから見てみるとどんな場面かわかりやすいだろう。
さて、以下のSSが件の階段だ。ここにどんな仕掛けが施されているのかというと、
どちらに進もうと階段の前まで戻る、無限ループ構造というもの。
最初に選んだ側と逆の階段を進んでも、片方の階段のみを繰り返し進もうとも、まったく同じ場所に戻ってきてしまう。
ループするほど変化が生まれるということも無く、スイッチのようなものも見当たらければ脇道も無い。
周囲にブロックは見当たらないため、右手に持っている銃も役立たずだ。
この無限ループはとある条件を満たせば脱することができるのだが、これがなんとも意地の悪い作りになっている。
おそらくその攻略方法を知っても、しっくりくる問題ではないかもしれない。
謎そのものは無限ループとわかりやすいが、普通のパズルゲームと同じ感覚で攻略を試みたのなら、突破した際には拍子抜けするかもしれないという意味でパズルらしくない答えなのである。
この『階段』は、物理的にも常識的にもおかしい構造になっている。
その法則を看破するには「よくわからない」に対し「よくわからない」のまま "なにか" をしなければいけない。
そして正体が解った時とは、すなわち同時に、答えを体験した時になる。
分かり辛いヒントやトライアンドエラー前提のデザインには、プレイヤーを突き放すような自分勝手さすらあるのかもしれない。
では、そんな本作の魅力とはどこにあるのか。
それは、”ゲームだからこそ実現できるありえないこと” にあるのだと思う。
本作に登場する仕掛けは奇妙なものが多いが、その割にどれも余計なブラフは無く一定の法則に基づいた動きをしてくれる。
常識的に見れば不自然と感じる動きをしていても、仕掛け自体に理不尽さは無い。
『階段』の場面でも周囲には階段以外の要素が無い。難解なシチュエーションではあったものの、答えにたどり着くまでそう時間はかからない。
例えば他にも……
これらの仕掛けも同様に、「何か」をすれば「どうにかなる」というもの達だ。
もちろん、シビアなキー操作やランダム要素は無く、常に同じ挙動をする。
それでいてどれも物理的・常識的な法則に捕らわれない、むちゃくちゃな空間を当たり前に見せるギミックになっている。
果たしてここにどんな謎があり何が起きるのか、見ただけで正解にたどり着ける人は多くは無いだろう。
故にプレイヤーはどうなるか想像しながら試行錯誤し、偶然を伴いつつ答えへとたどり着く。
この”想像”に対する”結果”の部分へ目を向けて遊んでいると、しだいに奇妙さに驚きながらも同時に楽しんでいることに気づく。これこそが本作の他には無い魅力なのだ。
……今更ではあるが、本作をより正確に表現するならば 「パズル」 でなく 「パズル ”風” アドベンチャー」 になるのかもしれない。
『Antichamber』で表現される世界は、無茶苦茶で非現実的と実にゲームらしい光景だ。
それはさながら、良さのわからない作品ばかりが並ぶ美術館にでも迷い込んだかのような感覚
で、人を選ぶものであることは間違いない。
しかし、今までの常識に捕らわれた考えや感覚を裏切ってくれる世界が馴染む頃には、おのずと良さを理解できてくる不思議な魅力も持っている。
パズルが好きな人はもちろん、雰囲気だけでも気になった人は、ぜひともこの魅力を体験してほしい。
きっと、今までに無い奇妙な楽しさを感じることができるだろう。