「その体験が自分にも振りかかるかもしれない」という恐怖はホラーコンテンツの醍醐味のひとつだろう。「もしかしたら自宅や帰り道、はたまた旅行先などで、自分が同じような目に遭うかもしれない」という恐怖感だ。とりわけ音響や映像に頼らない読み物としての怪談は、この醍醐味が凝縮された最たる例と言える。
そんな怪談のような恐怖を味わえるホラーゲームが、今回紹介する『SOMA』である。まずは、このゲームの特徴を列挙してみよう。
ビックリ演出や逃走劇といったホラーゲームのお約束は効果的に配置する程度に抑え、舞台設定を含めた物語でプレイヤーに恐怖を味わわせるというのが本作の大きな特徴である。開発を手がけたのはスウェーデンのFrictional Games。彼らは『PENUMBRA』シリーズや『Amnesia: The Dark Descent』とホラーゲームを長年作り続けてきたベテランだが、最新作『SOMA』ではこれまでのホラーゲームとは毛色の異なるものを作り上げることに成功している。
なお、『SOMA』は前情報なしでのプレイが推奨されるタイプのゲームなので、もしもここまで読んでピンと来た場合はそのままストアページへと向かおう。
本作の舞台となるのは海底にある研究施設PATHOS-II。主人公はこの施設で意識を取り戻したサイモンという男で、トロントで書店員として働いていたはずなのだが、どういった経緯でここに来たのかもわからないまま、助けを求めて施設を探索するといった出だしとなっている。この通り、主人公はPATHOS-IIはもちろん、自身がなぜここにいるのかということについてもまったくわからず、それらの謎を追っていくのも目的のひとつだ。
操作は一人称視点のオーソドックスなスタイルを採用しているが、アクション要素は弱め。ただし、PATHOS-IIを徘徊する異形を相手にするシーンが一部存在している。とはいえ、サイモンは丸腰なので隠れて逃げまわるのが精一杯で武器を手にしてそれらに立ち向かうようなことはない。
また、施設に残された文字資料やオーディオログ、他者との会話などから物語についての理解を深めていくタイプのゲームなので、アドベンチャーゲームとしての色合いが濃い。なお、『SOMA』には有志による非公式の日本語化MODがあり、本稿ではそれを使用したスクリーンショットを用いているので、その点は留意してほしい。
「他者との会話」と書いたが、主人公サイモンをサポートする存在として科学者のキャサリンが登場する。彼女とは序盤に知り合うことになり、以降、彼を端末越しにサポートしてくれる存在だ。施設関係者であるキャサリンはPATHOS-IIの内情にも明るく、彼女との会話を通して事態を把握していく。
また、『SOMA』を象徴するのが「自身を人間と言い張る」ロボットとの会話だ。
トレーラーにも登場するこのロボットはどう見ても機械であるにもかかわらず、自身が人間であると主張し続ける。「ロボットを遠隔操作しているのか?」と問えば否定され、「ロボットのなかに閉じ込められたのか?」と尋ねればありえないと返されてしまうといった具合で取りつく島もない。一方でロボットから見てもサイモンは「同じく」人間に見えるらしく、謎は深まるばかり。
このロボットは果たして本当に人間なのか、仮に人間だとしたらなぜこのような格好になっているのか、といった謎も物語の鍵を握っている。
このように『SOMA』は謎多き物語を軸に展開し、クリアまで10時間程度とプレイ時間もそこそこ長い。しかしながら、それらの謎が氷解するのは案外早く、以降は舞台設定を活かした場面が登場してプレイヤーに不安の種を植えつけていく。
ゲーム中に何度か登場する、プレイヤーに行動選択を迫る場面もそのひとつ。エンディングにこそ影響を与えないものの(本作はマルチエンディングではない)、その選択がジワジワと効いてきて「あの選択はよかったのか」と思わずにはいられない。行動選択を迫るゲームとしては『The Walking Dead』が有名だが、『SOMA』のほうがより効果的で、プレイヤーの採った選択の意義を問われるものになっていると言えるだろう。
冒頭でも述べたように『SOMA』の怖さは、怪談の怖さに似ている。主人公サイモンがいるのはPATHOS-IIという海底施設だが、根底に流れているテーマは極めて身近なものであり、彼が採っていく選択もプレイヤーである我々と地続きのものだ。
「もしかしたら自分にも……」と思わずには入られない恐怖――陽の光もあまり届かない海底施設PATHOS-IIにはそうした闇が眠っている。施設の、そして海底の闇が深まるにつれ、居心地の悪さや何とも言えない感情があなたに影を落としていく。『SOMA』の描く深淵は、じっとりと汗をかくようなホラーを求めているあなたのために存在している。