「一年を 二十日で暮らす いい男」という句がある。春と秋に10日ずつ、年20日だけ働けば食っていけるとは楽な商売だなと、相撲取りを揶揄するものだ。それでなくても力士なんてのは大体自重で膝を壊して去っていく。強大な牙が自らを貫き絶滅したマンモス(※1)のように、己の武器で身を滅ぼす強いんだか儚いんだか解らない生き物である。
※1 「キン肉マン」ではそういうことになっていた。信じる信じないは自由だ。
今回ご紹介するのはそんな力士が主人公の横スクロールジャンプACTだ。ところがこの力士、とにかく運動性能が低い。鈍重であらゆる動作がモタつき、いちいち振り向き動作を挟んだりしてちっとも気持ちよく動かせない。
その上パズル要素のための物理演算が力士自体にも働いており、その傾きが一定を超えると転倒するのだ。お前誰かに思い切り押されても転ばず耐えるのが仕事じゃないのか。しかもこの力士にはあろうことかバランスを取る操作がない。
なのでちょいとジャンプするだけで着地で転ぶ。段差を歩いて降りても転ぶ。階段を登るだけでも転んだりする。まあ転ぶ。とにかく転ぶ。隠れキリシタンもびっくりだ。パライソへは行けそうもない。
そしてひとたび転倒するや、自力では二度と起き上がれない。小石に蹴躓いただけで人生詰みである。レベルとしてはホンダのASIMOといい勝負。転倒回復技術の分HRP-2に負けている。これで終わればハッキリ言ってクソゲーである。両国の空を座布団が舞う異常気象(※2)もやむなしだ。
※2 不出来な相撲に対する大自然からの警鐘と言われている
だが面白いことにこの力士、転んでも行動不能になるだけで死にはしない。10分でも20分でも寝っ転がったままもがき続ける。そこからどうなるものでもないのに、システムはキャラの死亡を判定しないのである。ただそっとリトライのためのボタン操作を教えるだけだ。
なぜならば、この力士には時間を巻き戻す能力があるのだ。これこそスモウレスラー最大の奥義。これさえあれば、何もないところですっ転んでも人に見られて恥じ入ることもない。うっかり同じ本を二冊買う、という失態を三巻連続でやってしまっても巻き戻せばセーフだ(※3)。
※3 人としてはわりかしアウト
単なる相撲取り風情がどうして時間を操れるんだ、と疑問を持つ向きもいるかもしれないが、そうした意見は浅慮だと言わざるを得ない。古来、相撲は神へ奉納する儀式でもあった。神事を執り行うのだから、その立場は行司にせよ力士にせよ、巫女や宮司と同じ神職である。
フィクションに神父が出たら吸血鬼を退治て当たり前、司祭が出たらアンデッドを土に還して当たり前。神懸かった力のひとつやふたつあって当然だと言える。砂糖は甘い、ポストは赤い、おっぱいは揉みたい(※4)、それくらい説明不要のことなのだ。
※4 筆者は胸よりお尻派なのでその限りではない ……この注釈要る?
ゲームの方はシーソーの上を行ったり来たりして傾き過ぎないようにバランスを取れだとか、勝手に流れていくイカダに乗って河下りだとか、予備動作が長くレスポンスが悪いキャラにやらせていいとは思えないステージがいくつも登場する。
ただ幸いなことに巻き戻しには「一遍にできるのは最大10秒程度」という以外には制限も使用コストも存在しない。10秒で足りなければ一瞬でチェックポイントまで戻ることもできる。リトライ周りが快適なおかげでクソゲーに堕ちず、土俵際で踏みとどまれているとでも言おうか。最適な行動ができるまで何回でもやり直せばいいという、高い難易度を力尽くで引きずり下ろすような調整になっている。
そんな訳で、甚だ動かしづらい相撲取りがなにかの加減ですんなり障害を超えるまでひたすら試行を繰り返すという、やっててなんだかTAS(※5)動画の作成過程ってこんな感じなんだろうなと思うゲームがこのSUMOMANだ。
※5 Tool-Assisted Superplay or Speedrun ツールの補助ですんげぇ動きをするゲームプレイ動画
ちなみに舞台は紛れもなく日本のはずだが、ロシアのスタジオによる制作なのでゲームは全編に渡って「日本と見做せなくもない東洋の国」となっている。正直言って外人の想い描くうろ覚え日本ステージとか筆者は大好物である。
天井から垂れた鎖(たぶん自在鉤のつもり)に行灯をぶら下げてみたり、変な看板があったり、提灯の文字が反転していたり、収集アイテムがカリフォルニアロールだったり、それほど間違ってはいないけど合ってもいないという絶妙な再現具合だ。
日本語の吹替えもあるのだが、これがまた素人くさくていい。クレジットされている名前を検索したらオーケストラの指揮や作曲が本業の人だったので、声の演技に関しては事実素人なのだろう。英語が喋れるので翻訳の仕事を請け負ったらなぜか声も当てさせられたくらいの案件なんじゃなかろうか。
実を言うとアクションゲームとしての面白さよりもそうしたポンコツ成分を期待して購入した部分が強いわけだが、遊んでいる内に普通に楽しんでいる自分がいた。
なによりも、後半に登場する1ステージまるごと全部という大掛かりなイースターエッグを見せられては、EDを迎える頃には本作への好感度はMAXの♥10個である。デートに誘われたら二つ返事で出掛けちゃう。勿論その後は二人(?)きりでオトナの時間を過ごすのだ。きっと決まり手は「押し倒し」……え? 不浄負け?