本稿を書くにあたり、私は改めて本作をリプレイした。そして確信した。自分はTPSとFPS限らずシューターであれば様々な作品をプレイするが、五年の月日を経たにも関わらず、本作は時の風化をものともしない至高のサード・パーソン・シューターだ。
本稿においては本作がいかに優れたシューターであるかを伝えるために筆を執ろうと思う。最後までお付き合い下さり、そして未プレイであれば少しでも興味をもって頂ければ幸いだ。
主人公である「マックス・ペイン」は過去に妻と子供を亡くしており(これは初代『MaxPayne』の冒頭)、今となってはさすらいの用心棒稼業に就いている。本作品ではそんなマックスが針の穴のように小さなポイントから、巨大な陰謀に巻き込まれていく事になる。
本作はシリーズ三番目の作品であり、前に二つの『MaxPayne』が存在している。だが、それらをプレイしていなくとも本作は成り立つ。何故なら、リブート作品である側面が強い為、過去をなぞらうシーンが少ないからだ。マックスの過去を知っていると、多少にやりとしてしまうシーンがある程度。よってシリーズ未経験者への門戸は広い。
また、マックスという人物にもこのパラグラフで触れておこう。彼は、シリーズを通して登場する回復アイテムでもある鎮痛剤「ペインキラー」の中毒者であり、彼なりの“休息の仕方”はペインキラーをオーバードーズ(過剰摂取)しながら、愛飲している「Kong whiskey」を飲むという自堕落な男。常に死に場所を求めているような男だ。
本作はTPS(サード・パーソン・シューティング)のカメラを用いており、戦闘時は彼の背を追うように戦わなければならない。そして本作を語るにあたって外すことの出来ない要素、それが「バレットタイム」という時限制のスローモーション状態を作れるメカニクスだ。
バレットタイムの使用可能残量は意識しなくとも溜まる故に、精密に狙って安全に敵を排除するといった形でディフェンシブに用いる場面が多い。ただし「攻撃こそ最大の防御」といった趣のディフェンスだ。
もう一方には超攻撃的なフィーチャーが存在している。それが「シュートドッジ」だ。
飛び上がりながら射撃を行うシュートドッジ中は完全に無敵状態だが、バレットタイムゲージを全部消費してしまう。その上、シュートドッジで飛び上がったあとは必ず地面に横たわることになり、この間マックスは完全に無防備な状態になってしまう。よってこのシュートドッジは、ここぞのときに用いる超オフェンシブな要素と言えるだろう。これらを上手く使い分けながら進むのが本作のコツだ。
また、演出も優れており、一シーケンスの最後に残っている敵に対しての射撃ではキルカメラが発動する。キルカメラが発動することにより表現される演出は、残酷が故に美しい。また、最後に残っている敵限定で発生するのでマックスが死ぬことはないし、どんな無茶な姿勢を取っていてもいい。一つのシーケンスが終わった合図にもなるので考え抜かれ優れた演出だといえる。
本作はガンファイトが主題におかれているが、このガンファイトが堪らなく楽しい。正直難易度は高めといえるが、よって状況を打開した瞬間の喜びは半端なモノではない。そのストレスから逃れたときの“してやったり”感は無上の喜びをもたらす。その喜びに花を添えるのが、前述したキルカメラによる演出や、シューターとしての射撃感、その心地よさのプライマルな部分なのだ。バレットタイムさえ使えば誰でもヘッドショットが可能だし、その演出は敵の死を強く印象づけてくれる。敵の死とはつまり、己の勝利である。
また、難易度の高さがもたらしている焦燥感はあるものの、救済措置も十分にある。例えば回復アイテムのペインキラーを所持している時に死に至る攻撃をされたとしても、体勢を崩しながら自動的にバレットタイムに入り、相手を撃ち殺せば死に至らないという「ラスト・マン・スタンディング」なるものが実装されている。そのためペインキラーはむやみに使い切らず、ラスト・マン・スタンディングの為に取っておくというのも戦略の一つだろう。
基本的にヘッドショットを狙う作品だが、バレットタイムの導入によりヘッドショットが他の作品よりも容易であり、基本戦略となっている。そしてこのヘッドショットはキルカメラで映えるのだ。キルカメラ発動中も銃を撃ち続ける事が可能なので、敵の頭に新しい鼻の穴や耳の穴を無数に開けてしまえる。
本作の魅力はガンファイトそのものにあるということを、開発会社は”半分だけ”分かっているように思える。ガンファイトだけをひたすらプレイできる「アーケードモード」なるものが搭載されている一方、そのアーケードモードにおいて一部のカットシーンをスキップできない点は課題として残る。このカットシーンは通常、ストーリーのみをプレイするのであれば一回性として受け止め、飛ばすこともせず見れるだろう。だがリプレイアビリティ(リプレイ性)はあまり重要視していないのか、上記のような仕様になっている点は残念だ。
『Max Payne3』それは、極限のガン・ファイト・ゲームだ。
ギリギリまで耐えてここぞというときに風穴を開ける快楽、連続するヘッドショットの快楽、ハードボイルドな台詞回しによる快楽、意外性のあるプロットによる快楽……本作はストレスと引き替えにこれらの快楽を手にする作品だ。
至高に昇華したヘッドショットという快楽は病み付きになる。
マックスがペインキラーとKong whiskeyによってに酔うように、私達もまた、本作の世界観やプレイフィールにしたたかに酔わされる。
敵の顔面にあだ花を咲かせ、ガンショットでオペラを奏でよう。
それらはいずれにせよ、マックスが辿る運命よりかはずっとイージーだ。
何故なら彼は、死に場所を探すために戦い続ける運命を受け入れている。
ならばその戦いを見届けよう。マックス・ペイン、その終わりを私は未だに待つ。