自分の首を絞めるのは自分自身『ECHO』

ゲームタイトル:
開発元:
パブリッシャー:
定価:
2,480円
Litchi 筆者:Litchi Steam プロフィール

『ECHO』はTPSのステルスアクションゲーム。
とある宮殿内部を探索し、最深部へ向かうことが目的だ。
舞台となる宮殿は、精巧なアンティーク調の作りで統一され、誰もいない空間ですら寂しさよりも美しさを感じさせる見事な建造物。
各部屋はスケールが非常に大きく、奇妙なほどにシンメトリーであり、全体的に画面映えするものの、どこか不気味さが付きまとう不可思議な世界観が特徴的だ。

ECHO

そんな本作の主人公が行えるアクションは、「走る」「飛び越える」「銃を撃つ」など、特殊なものはない平均的なものばかり。対してステルス要素に関しては、見付からないように進むのではなく、見付かった後どう切り抜けるかという形式であるため、単純なかくれんぼではない、アクション性のある内容になっている。

ゲームは1チャプター=1部屋という構成で、その区切りに当たるのが部屋同士を繋ぐ一際大きな扉だ。事実上、この扉が各ステージのゴールと言える。
しかし、当然カギがかかっており、そのカギを探す必要があるので用意されたナビに従って部屋を探索する、というのが大まかなゲーム進行になる。
道中では難解なギミックや特殊な装備が必要になる場面はまったくなく、一言で表現してしまうと単純に”行って帰る”だけのゲーム性と言えてしまうわけだが、しかし、もちろんこれが一筋縄にいかない。
その障害となるのが本作の唯一にして絶対の敵対存在「主人公のコピー」だ。
奴らは本作を難しくも、そして簡単にもする特異な能力を持っている。

ECHO 普段は索敵レーダー(左)の球体HUBが、攻撃を受けると棘状(右)に。
この時、もう一度攻撃を受けると死亡。自動回復はするものの、主人公のHPは実質”2”ということに。

敵は最初、「歩く」「掴みかかる」しかできず、見付かったところで簡単に横をすり抜けられる。この状態では何の脅威にもならないが、敵はプレイヤーのアクションから学び、自身の動きとして取り込むという"コピー能力"を持っている。
しかもそれは、敵自身が視認する必要はないため、部屋のどこにいようと関係なく行われるし、「しゃがむ」、「じっとする」というような些細な動作一つ一つまでコピーする始末。
この特性により、プレイヤーが持っているアクションの豊富さという有利はなくなり、反対に敵は数の多さを生かして、どんどんと優勢になり、手強くなる。
この能力を防ぐためにはプレイヤーが使われては困るアクション、例えば銃を撃つ、走るなどを自制する必要が求められる。将来的に自分を逃がすために、本来使えるはずの当たり前の動作が使えないのである。
しかしそれでも、危機的状況を脱するためにはどこかで思い切りよく行かなければならない。本作のレベルデザインは、そんなジレンマが常に付きまとう作りになっている。

……と、話がこれだけならただ単に、敵が圧倒的有利なゲーム性です、で終わってしまうわけだが、本作はどんな状況でも敵と自分の有利不利は釣り合う、いやむしろギリギリでプレイヤー側が有利になれる秀逸なバランスを保っている。
その理由は敵が持つ特性の仕様にあるのだが、これは宮殿自体の機能と密接な関わりを持っている。

ECHO 敵は大量に居て、まったく見付からずに進むのは無理に近い。
掻い潜るためには敵をよく理解し、利用しなければならない。

宮殿には2つの姿がある。"点灯時"と"消灯時"だ。
部屋の照明は一定の間隔で切り替わり、この点灯、消灯のサイクルを繰り返す。もちろん、明るさが変わるだけ、なんてことはない。
敵がアクションを学ぶという性質だが、これは点灯時にしか発揮できない。消灯時はプレイヤーがどんなアクションをしたところで、学ぶことができないのである。
よって、消灯中は好き勝手に動き回れ、プレイヤー側有利の状況ということになる。もっとも、敵は暗闇の中でも視界は変わらず、こちらは小さなライトのみと視覚という面では不利であり、依然こちらばかりが有利というわけでもない。あくまで咄嗟のピンチを切り抜けられる余地が生まれる、という程度だ。
ただそれでも、大目標が「鍵を取って扉へ向かう」という行き来の多くなる作業である以上、消灯時の特性は窮地を凌ぐ好機となる。
さらに、好機は点灯の瞬間にもある。敵は点灯の際、再起動という体で、ゆっくりと立ち上がるような復帰動作を行う。この瞬間、敵はどんなに接近していようが一度こちらを見失ってくれる。うまく点灯の時点で視界外に隠れていれば、撒くことができるのだ。

ECHO 敵は鈍感で、すぐ背後を歩いても気づかないことから、隠れること自体はさほど難しくない。
それでもやはり、圧倒的な数の多さと見通しの良さが、必ずどこかで綻びを生んでしまう。

そしてもうひとつ、"記憶の最適化"についても、敵を欺くためには頭へ入れておく必要がある。
敵の持つコピー能力は記憶こそ即時行われるものの、記憶したアクションが実際に動きへと反映されるのは再起動時、つまり次の点灯後からになる。要は1ターン分のタイムラグがあると思っていい。しかも、この記憶の最適化はプレイヤーの使用頻度も参照し、あまり使っていない行動を忘れていく上、プレイヤーから離れすぎた敵はそもそも記憶を忘れてしまうという欠点がある。
これらの機能をうまく利用してやることで、プレイヤーは動きにケースバイケースの緩急をつける自由度を得られる。つまり、もしも使われたくないアクションを記憶されたとしても、しばらく我慢し続けていれば再び使われない状況に巻き戻せる。その間は攻守こそ逆転する形になるが、やはりここでも敵とプレイヤーの有利不利は極端な傾き方をしないのである。

「水に入る」「ダッシュ」「銃を撃つ」を知らない敵たちがアクションを覚えると……

さて、ここまでの説明だけだと楽にプレイできる状況を作ろうとした時、可能な限りアクションを使わないほうが良い、と思うはず。しかし、実際はその逆。たくさんのアクションを意図的に覚えさせることこそが、より良い状況生むきっかけになる。
その鍵を握るのは、"無駄なアクション"だ。
例えば、部屋のいたるところには「音叉」や「食べ物」のような利用できる物がある。
「音叉」の場合、使うと音を鳴らして近くの敵を呼び誘導できるのだが、もしこのアクションを敵がコピーして使うとどうなるだろう?プレイヤーもおびき出されるかというと、むしろ敵の居場所がわかることで距離をとるヒントとなる。このことから「音叉を使う」というアクションは、敵にとってコピーしても何の意味もない無駄な行動となる。
「食べ物」でも同様のことが言える。口にするとスタミナが回復する/減るものがあり、まったく意味がないわけではないが、「食べる」というアクション自体は逃げる/追うにおいて無駄行動であり、覚えさせ得である。
他にも「しゃがみ移動」「声をかける」「物を拾う」なども同様に、プレイヤーが使うからこそ意味があり、敵が使っても有利にはならないばかりか無駄に隙を生む要因となりうる。
安全かつ確実に切り抜けるため、プレイヤー自身がこういった無駄な行動を行うことで敵を教育していくことが効果的になる場面がある。
そう、追う側が必ずしも優位とは限らないことに気づけば、本作の持つステルス性は逆転し、別の楽しさが顔を覗かせるのである。

ECHO 無駄な行動は動作時間こそ一瞬ではあるが、確実な隙が生まれる。
そういった隙が重なれば、しだいに無視できないものになっていく。

さらにこの無駄な行動が、消灯と点灯にも深く関わってくる。
実は、消灯と点灯の時間は常に一定というわけではない。"敵が記憶したアクションの数"により変動するのだ。
点灯時間は記憶したアクションが多いほど少なくなり、反対に消灯時間は増えていく
これにより、敵が動きの面で手数を増やすほどに、消灯時間というプレイヤーの有利な時間も増えていく。当然、その中で無駄なアクションばかりを覚えさせているなら、さらにチャンスは広がるだろう。
反対に、敵に記憶されることを恐れ、動きを自制し過すぎてしまうと点灯時間は伸び、ジリ貧の状況も長くなる。それどころか、逆転の機会を生む消灯時間も一瞬になってしまう。
このように、”記憶”に関するシーソーをどこまで、あるいはどのような形で傾けるか、その判断とコントロールは全てプレイヤー自身が実行するアクションで調整できる。全てを掌握しながら掻い潜る快感こそ、本作の醍醐味なのである。

ECHO 消灯はなにもブレーカー的なものが落ちたわけではないらしく、
エレベーターも扉も動いてくれる。うまくやれば、敵を撒くための障害にすることも。

『ECHO』において、敵とプレイヤーの間には装備をはじめとした手段の違いはまったくない。唯一絶対的な差といえば、思考だけだろう。しかし、プレイヤーが手段を用いればその思考の溝すら埋まり、あっという間に形成は逆転する……はず。
しかし、様々な行動に対する制約のような仕様は、常に両者の均衡を別々の側面から保つ。
このことが、アドリブ性に富んだ多岐にわたる攻略方法を引き出し、他のステルスゲームとは違ったリプレイ性を見事に形成している。
考え抜かれた行動の中に含まれる”無駄”こそが最も有意義という、一風変わったステルスゲーム『ECHO』。
本作であなたも、自分自身を相手にする難しさと、それを出し抜く快感を味わってみてはいかがだろうか。

解説付きの動画を用意したのでぜひ、本作の独特な雰囲気を感じてみてほしい。

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